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京都地方裁判所 昭和33年(ワ)511号 判決 1960年8月30日

原告 国

被告 京都信用金庫

主文

被告は原告に対し、金四二五、三三六円およびこれに対する昭和二九年三月二七日から同二九年五月一四日まで年三分六厘、同二九年五月一五日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告指定代理人は、主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

「一、訴外丸美染色株式会社は、昭和二九年三月二六日現在で、すでに納期限を経過した別紙第一目録記載の源泉所得税および法人税等合計一、四一二、三九〇円の国税を滞納した。

二、右訴外会社は、被告金庫(同金庫北大路支店)に対し、昭和二九年三月二六日現在で、別紙第二目録記載の定期預金等合計四八七、一八九円の債権を有していた。

三、そこで、原告(所管大阪国税局長)は、昭和二九年三月二六日前記訴外会社に対する滞納税金の徴収のため国税徴収法第六二条第六三条第六七条附則第二条旧法第二三条ノ一に基き前項記載の債権を差押え、これを昭和二九年三月三一日までに支払うよう催告し、この通知ならびに催告は同日被告金庫(同金庫北大路支店)に到達した。

四、ところが、被告は原告に対し、別紙第二目録記載の債権のうち、1定期預金二九〇、〇〇〇円中一四、六六四円、3通知預金二一、七〇九円、4積立預金一〇、四八〇円、5出資金一五、〇〇〇円合計六一、八五三円を支払つたのみで、1定期預金二九〇、〇〇〇円中二七五、三三六円、2定期預金一五〇、〇〇〇円合計四二五、三三六円の支払をしない。

五、よつて、原告は被告に対し、右残額四二五、三三六円およびこれに対する差押の翌日である昭和二九年三月二七日から右債権の支払日である昭和二九年五月一四日まで年三分六厘の割合による約定利息、昭和二九年五月一五日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、次のとおり述べた。

「請求の原因中第二項ないし第四項は認めるが、第一項は不知、第五項は否認する。しかしながら、

一、被告は本件係争被差押債権に対し差押前に質権を設定しており、これを実行して優先弁済を受けたものにすぎない。すなわち、

1 被告は訴外丸美染色株式会社と昭和二八年五月一日当座取引契約を締結し、二七〇、〇〇〇円を極度額とする当座貸越契約を締結するにあたつて、訴外会社の被告に対する同日付金額二九〇、〇〇〇円、期間六ケ月の定期預金に対し質権を設定し預金証書の交付を受けた。そして、昭和二八年一一月一四日右定期預金満期日到来により、訴外会社の被告に対する同日付金額同額、期間六ケ月の定期預金(別紙第二目録1記載の定期預金)に対し前同様の質権を設定し預金証書の交付を受けた。ところで、昭和二九年五月一四日被告は訴外会社と右当座取引契約を合意解除し、被告が質権を有する右定期預金二九〇、〇〇〇円より被告の訴外会社に対する貸越金元利合計二七五、三三六円について優先弁済を受け、残額一四、六六四円を原告に支払つたのである。

2 被告は、訴外会社に対し昭和二九年三月一四日一五〇、〇〇〇円を支払期日同二九年五月一四日の約定で貸渡すにあたつて、訴外会社の被告に対する昭和二八年一一月一四日付金額一〇〇、〇〇〇円および五〇、〇〇〇円、期間六ケ月の各定期預金(別紙第二目録2記載の定期預金)に質権を設定し預金証書の交付を受け、右支払期日である昭和二九年五月一四日に右各定期預金より優先弁済を受けたものである。

二、仮に、被告の質権が原告に対抗できないとしても、約定による相殺を主張する。すなわち、被告は訴外会社と昭和二八年五月一日取引を開始するにあたつて、訴外会社から担保を差入れさせ、債務不履行等の場合は担保品の処分につき被告がその方法価格時期等を決定しうる特約をしたから、原告の債権差押により被告は訴外会社に対し弁済期が到来したものとして右差押時において相殺をなしうるのであつて、被告は訴外会社に対し昭和二九年五月一四日相殺の意思表示をした。仮にそうでなくても、訴外会社に代位した原告に対し本訴において相殺の意思表示をする。従つて昭和二九年五月一四日現在で被告の訴外会社に対する債権四二五、三三六円と訴外会社の被告に対する本件係争差押債権を対当額で相殺し、残額六一、八五三円を原告に支払つたものである。

三、仮に前項の約定による相殺が理由がないとしても、不法行為による相殺を主張する。すなわち、国は国税の徴収には厳重にその納期を守らせ、もし滞納のある場合はすみやかに強制徴収の手続をすべきである。それにもかかわらず原告は故意または過失によつて訴外会社に対し四年間も徴収手続を怠つていながら、たまたま被告の債権の担保となつていた訴外会社の定期預金債権を差押え、被告に右同額の損害を与えたものである。よつて原告の右不法行為による被告の損害額を原告の請求額とを対当額で相殺するものである。

四、仮に、以上の主張が理由がないとしても、原告の差押は次の理由により被告には対抗できないものである。すなわち、訴外会社の被告に対する前記係争被差押定期預金債権は被告の承諾がなければ譲渡または質入することのできない譲渡禁止の約定があるから、原告が右債権を差押えても被告に対抗することはできないものである。」

原告指定代理人は、被告の主張に対し、次のとおり述べた。

「一、被告の質権に関する主張は次の理由から失当として排斥されるべきものである。

1 被告の質権は原告に対抗できないものである。すなわち、通常、預金債権等指名債権につき質権を有する者が、その質権をもつて第三者に優先権を対抗しうる場合は、民法第四六七条に従い第三債務者との間に確定日付のある通知または承諾のある場合に限られる(民法第三六四条第一項)。もつとも、本件の場合では、質権者と第三債務者との地位が同一人に併存しているので確定日付ある通知または承諾は要しないが、その代りに債務者である訴外会社との間の質権設定契約証書に確定日付のある場合にのみ、その質権をもつて第三者に対抗しうると解すべきである(広島高等裁判所松江支部昭和三一年三月三〇日判決、高等裁判所民事判例集九巻五号二九七頁以下参照)。ところが、本件については前記訴外会社と被告との間の質権設定契約証書に確定日付がないから、被告はその債権質の優先弁済権をもつて第三者たる原告に対抗しえない筋合にある。

2 仮に被告の質権が原告に対抗しうるとしても、原告の本件国税債権に優先しない。すなわち、原告の本件差押は国税滞納処分としてなしたのであるが、滞納者の債権について質権を有する者は、その質権の設定が国税の納期限より一箇年以前にあることを公正証書により証明しえた場合にのみ、国税債権に優先して弁済を受けられるのである(国税徴収法附則第五条旧法第三条)。そうであるのに、本件滞納者訴外会社の定期預金債権について被告が質権を設定したと主張する昭和二八年一一月一四日、同二九年三月一九日は、いずれも右訴外会社の滞納国税の納期限より一箇年以前でないから、被告主張の質権は本件国税債権に優先しないものである。

3 仮に被告の質権が原告に対抗でき、また原告の国税債権に優先するとしても、その実行は無効である。すなわち、元来、差押にかかる債権については、その差押の効力発生後第三債務者は債務者に対する支払いを禁止され、仮に第三債務者が支払いをしても、その支払いは効力を生じない。このことは、被差押債権につき質権を有する他の債権者が取立権を行使し、第三債務者がこれに支払つた場合にも同様である。一般に強制執行手続が開始された場合に質権を有する他の債権者は、もつぱら配当手続に関与し自己の優先弁済権を主張すべきものである。この理は滞納処分による債権差押手続の場合にも変ることはない。すなわち、被差押債権について第三債務者において支払いを禁止されている以上、質権を有する債権者としても、自己において右差押を無視して有効に取立をすることはできない。被告は、被差押債権について債務者(本件債権差押の第三債務者)としての地位を有するとともに、被差押債権の質権者の地位をも併有し、その質権の実行として昭和二九年五月一四日取立をしたと主張するが、右取立は、併せて第三債務者としての地位における債務の支払いに外ならず、すでに昭和二九年三月二六日被告に対し差押の通知が到達し、差押の効力の発生している本件にあつては、右支払いは差押の効力発生後になされた無効のものといわなければならない。

二、被告の約定による相殺の主張は次の理由から失当として排斥されるべきものである。すなわち、被告は、債権差押により弁済期が到来したものとして相殺することができる旨の約定があつた旨主張するが、被告と訴外会社間にそのような約定のあつた事実はない。すなわち、被告と訴外会社間には、訴外会社の被告に対する債務の一部不履行の場合、または、訴外会社が被告の増担保または代り金差入の請求に応じなかつた場合には、訴外会社が被告に対して有する一切の債権をその期限にかかわらず訴外会社の債務と相殺することができる旨の約定があつたにとどまり(乙第一号証の一「約定証書」第四条第三条参照)、訴外会社が第三者から差押を受けた場合に相殺しうる旨の約定はない。そして、訴外会社は、被告に対して差押当時債務不履行の事実はなく、また増担保あるいは代り金の請求を受けていた事実もなかつたから、被告の主張は理由がない。かえつて、訴外会社が強制執行を受けたときには、予告を要せず請求次第直ちに債務の全額につき弁済期がくるものとし、借越元利金を弁済する旨の約定がなされており(乙第一号証の二「当座勘定借越約定書」第一〇条参照)、予告を要しないのであるから特に催告期間をおく要はないとしても、被告の請求があつて初めて当座借越債務の全額につき弁済期が到来し、借越元利金を弁済すべきこととなるところ、原告のなした本件差押の前にそのような請求のあつた事実はないから、差押当時、訴外会社の当座借越債務は、なお履行期が到来しておらず、自働債権の面からみても相殺適状になかつたものというべきである。

三、被告の不法行為による相殺の主張は次の理由から失当である。すなわち、被告は、原告が国税の徴収を怠つていながら、今になつて本件定期預金債権を差押え、被告に対してその取立をするのは不法行為になると主張するが、租税の徴収は、もともとできる限り納税者の自主的な納付に期待すべきものであつて、被告の主張するように納期限を経過したからといつて直ちに滞納処分を行うべきであるという性質のものではなく、租税債権が時効によつて消滅するまでは、滞納処分による徴収をするかどうかは収税官吏の自由な裁量に委ねられているところである。なお、本件滞納国税について、滞納会社に対しては、昭和二六年七月一一日以降数次にわたつて動産差押等の滞納処分がなされてきているのであつて、国税の徴収を怠つていた事実はない。

四、被告の譲渡禁止の特約による主張は、次の理由から失当である。すなわち、被告は、本件定期預金債権には譲渡禁止の約定があるから、原告の差押は被告に対抗できないと主張するが、当事者間の約定によつて、国税徴収法第八条第一五条附則第五条第二項旧法第三条の適用を排除することを認めるならば、任意的に滞納処分を免れることのできる財産を設けることを許すことになるから、そのような約定は国に対して効力を有せず、滞納処分を妨げる理由とはならないと解すべきである。よつてこの点の被告の主張はそれ自体失当である。

被告代理人は、原告の主張に対し、次のとおり述べた。

「原告は、質権につき確定日付がないから原告に対抗できないと主張するが、原告は、訴外会社が被告に対する預金債権に関する権利以上の権利を債権差押により取得するものでないから、被告は、確定日付なくして、訴外会社に対抗しうべかりし理由により原告に対抗しうるものである。」

証拠として、原告指定代理人は、甲第一号証を提出し、被告訴訟代理人は、乙第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし九、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、第六号証の一、二を提出し、甲第一号証の成立を認めると述べた。

原告指定代理人は、乙号各証の成立は認めると述べた。

理由

一、訴外丸美染色株式会社が被告に対し昭和二九年三月二六日現在で原告主張の債権を有していたこと。原告が昭和二九年三月二六日右訴外会社の滞納税金を徴収するため右債権を差押え、これを昭和二九年三月三一日までに支払うよう被告に催告し、この通知ならびに催告が同日被告に到達したこと。被告が原告に対し別紙第二目録記載の債権中、1定期預金二九〇、〇〇〇円中一四、六六四円、3通知預金二一、七〇九円、4積立預金一〇、四八〇円、5出資金一五、〇〇〇円を支払つたのみで、1定期預金二九〇、〇〇〇円中二七五、三三六円、2定期預金一五〇、〇〇〇円合計四二五、三三六円の支払いをしないことは、いずれも当事者間に争いがない。そして、前記訴外会社が昭和二九年三月二六日現在で原告主張の国税を滞納したことは、成立について争いのない甲第一号証によつて認めることができる。

二、被告は前記訴外会社との間に本件係争被差押債権について原告の差押より以前に質権を設定しており、これを実行して優先弁済を受けたものであると主張し、原告は先ず第一に、被告の質権は原告に対抗できないものであると主張するので、この点について判断する。

被告が前記訴外会社との間に昭和二八年一一月一四日二七〇、〇〇〇円を極度額とする当座貸越契約を結ぶについて訴外会社の被告に対する別紙第二目録1記載の金額二九〇、〇〇〇円の定期預金に質権を設定したこと。被告は昭和二九年五月一四日に訴外会社と前記契約を合意解除し、被告の訴外会社に対する貸越金二七五、三三六円について質権を実行して優先弁済を受けたものとして右定期預金残額一四、六六四円のみを原告に支払つたこと。次に被告が前記訴外会社に対し昭和二八年一一月一四日一五〇、〇〇〇円を支払期日昭和二九年五月一四日の約定で貸渡すについて、訴外会社の被告に対する別紙第二目録2記載の金額五〇、〇〇〇円および一〇〇、〇〇〇円の定期預金に質権を設定し、右支払期日に質権を実行し優先弁済を受けたものとして右定期預金全額を原告に支払わないことは、いずれも原告が明らかに争わないから自白したものとみなす。そして、被告と債務者である訴外会社との間の質権設定契約証書に確定日付のないことは、被告の争わないところである。

そうだとすると、被告は自己に対する指名債権のうえに質権を設定したことになるから、被告は質権者であるとともに、第三債務者でもあるわけである。

ところで、指名債権をもつて質権の目的としたときは、民法第四六七条に従い第三債務者に質権の設定を確定日付のある証書で通知するか、第三債務者が確定日付のある証書で承諾しなければ債務者以外の第三者に対抗することができないことは民法第三六四条の規定するところである。右の規定は質権者と第三債務者とが別個である場合を予想していることは明らかであるが、その規定の趣旨は、要するに指名債権の譲渡もしくは質権の設定について通謀によりその日付をさかのぼらせて第三者に不測の損害を与えることを防止するため特に公示の方法を定めたものと解される。従つて、本件のように質権者と第三債務者とが同一である場合には、公示の方法としては、第三債務者を基準とする確定日付のある通知または承諾は要しないが、そのかわり債務者である訴外会社との間の質権設定契約証書に確定日付のあることを要し、それがないかぎり、その質権をもつて第三者に対抗することができないものと解するのが相当である。ところが、被告と訴外会社との間の質権設定契約証書に確定日付がないから、被告はその質権をもつて第三者である原告に対抗できないこととなる(差押について確定日付のある証書が必要でないことはいうまでもない)。被告のこれに反する主張は採用することができない。従つて、被告の質権に関する主張はその余の点を判断するまでもなく失当である。

三、次に、被告は、質権をもつて原告に対抗できないとしても、訴外会社との約定による相殺を主張するので、先ず、右の趣旨の約定があつたかどうかについて判断する。

被告と訴外会社との間の諸取引に関して、両者間には、訴外会社の被告に対する債務の一部不履行の場合、または、訴外会社が被告の増担保もしくは代り金の差入の請求に応じない場合には、訴外会社が被告に対して有する一切の債権を期限に拘わらず訴外会社の債務と相殺することができる旨の約定があつたことは、成立につき争いのない乙第一号証の一(約定証書)第四条第三条第二条の記載によつて認めることができるが、本件全証拠をもつてしても、被告の主張するように訴外会社が第三者から差押を受けた場合に相殺することができる旨の約定があつたと認めることはできない。(かえつて、後記のとおり当座借越債務については訴外会社が強制執行を受けた場合少くとも請求によつて履行期が到来すると定めていることが認められる。)そして、訴外会社が被告に対して本件差押当時右のような債務不履行のあつた事実、または増担保あるいは代り金の請求を受けていた事実のなかつたことは、被告の争わないところであるから、被告が右約定証書の記載を理由として相殺することは失当といわざるをえない。そうだとすると、本件において、受働債権、および自働債権のうち貸付金債務が差押当時履行期の到来していないことは明らかであるが、次に当座借越債務についてみると、成立につき争いのない乙第一号証の二によれば、被告が訴外会社と当座勘定借越契約を結ぶにあたつて、訴外会社が強制執行を受けたときは、予告を要しないで被告の請求次第直ちに債務の全額について弁済期がくるものとし、借越元利金を弁済する旨の約定(乙第一号証の二「当座勘定借越約定書」第一〇条)があつたものと認められるから、右の場合予告を要しないので特に催告期間をおく要はないとしても、被告の請求があつて初めて当座借越債務の全額について弁済期が到来し、借越元利金を弁済すべきこととなるが、本件差押の前に右のような請求のなかつたことについては被告において争わないから、本件差押当時、訴外会社の当座借越債務についてもなお履行期が到来していないと認められる。従つて、被告主張の債権はいずれも本件差押当時相殺適状になかつたものと認められる。よつて、被告の約定による相殺の主張はその余の点は判断するまでもなく失当として排斥を免れない。

四、被告は、前項の相殺が理由がないとしても、原告は故意または過失によつて訴外会社に対し四年間も滞納国税の強制徴収手続をすることを怠つていながら、たまたま被告の債権の担保となつていた本件債権を差押え、被告に損害を与えたのは不法行為になるとして、この点から相殺を主張する。しかし、滞納国税に対して直ちに強制徴収手続をするかどうかは収税官吏の裁量にかかるものであるばかりでなく、本件全証拠をもつてしても、原告が故意または過失によつて国税の徴収を怠つて被告に損害を与えたこと、また原告の所為と被告の損害との間に相当因果関係のあることを認めることができない。かえつて、本件滞納国税については訴外会社に対して昭和二六年七月一一日以降数次にわたつて動産差押等の滞納処分がなされていたとの原告の主張事実は、被告の明らかに争わないところである。従つて、被告のこの点に関する主張も採用することができない。

五、被告は、本件係争被差押定期預金債権には譲渡禁止の約定があるから、本件差押は被告に対抗できないと主張し、右約定について原告は明らかに争わないが、当事者間の約定によつて、国税徴収法第八条第一五条附則第五条旧法第三条の適用を排除することを認めるならば、任意的に滞納処分を免れることのできる財産を設けることを許すことになるから、そのような約定は国に対して効力を有しないものであつて、滞納処分を妨げる理由とはならないものと解すべきである。従つて、被告の右主張も採用することができない。

六、以上のとおりであるから、被告は原告に対し、別紙第二目録記載の債権中、1定期預金二九〇、〇〇〇円中二七五、三三六円、2定期預金一五〇、〇〇〇円合計金四二五、三三六円およびこれに対する昭和二九年三月二七日から同二九年五月一四日まで年三分六厘の割合による約定利息および同二九年五月一五日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があることになる。よつて原告の被告に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言については同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新月寛)

第一目録、第二目録 表<省略>

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